ITP 20年の結果まとめ ― マウスの寿命を本当に延ばした物質は何か

マウスの寿命を本当に延ばした物質はどれなのか。これを20年以上調べてきたのが、ITP(アイティーピー)です。米国NIAが、3機関で同時にマウスの寿命を測る試験プログラムです。ラパマイシン ・アカルボース・グリシンでは、再現性のある寿命延長が報告されています 。人気のレスベラトロール・NR・フィセチンは延びませんでした。もちろんマウスと人間は別の生き物で、用量や開始時期の影響も残ります。僕はこの表を、どのサプリに期待して、どれを自分のスタックから削るかの目安にしています。人間で「老化全体」を測るRCTとしてはTAME試験 が計画されていますが、結果はまだ出ていません。 エビデンスグレード: ★★★★☆(マウス寿命試験としては3施設同時再現を組み込んだ厳しめの設計) ✓ 積み上がっているもの 3施設(Jackson Lab、ミシガン大、テキサス大)で同時に再現をとっています。1化合物あたり約900匹です 遺伝的に多様な UM-HET3(4系統交配)マウスを使うので、1つの系統だけに出る偏りを避けられます 2004年から20年以上続いていて、数十の化合物のデータがたまっています ラパマイシンは、両性の寿命延長が何度も再現されました(用量を上げるほど延びることも確認) ほかにもアカルボース(雄で約22%)、17α-エストラジオール、カナグリフロジンなどの成功例があります △ これから必要なもの マウスの結果を人間に当てはめられるかは、まだわかりません(代謝・寿命・かかる病気のパターンが違います) 成功した物質の多くは雄でしか延びず、性差の仕組みもわかっていません 試した用量・開始時期・投与経路が最適だったとは限りません(「失敗」の受け取り方に幅があります) 健康寿命やバイオマーカーへの影響は、寿命とは別に評価する必要があります 結論:寿命が延びた物質は少なく、売れているサプリは延びなかった 20年分のデータを並べると、寿命が延びた物質は少なく、延びなかった物質のほうが多い です。いちばん一貫しているのはラパマイシンで、アカルボースも雄で大きな延長が出ました。反対に、何百億円も売れているサプリは延びていません 。レスベラトロール、ニコチンアミドリボシド(NR)、フィセチン、クルクミン。どれも寿命延長は確認されませんでした。 マウスで延びたからといって、人間でも同じとは限りません。ただ、ITPで延びなかった物質に寿命延長を期待するのは、エビデンスの面で苦しいと思います。僕はこの表を絶対の基準にはしていません。スタックから削るサプリを決めるときの、最初のふるいにしています。最初は全部飲んでみたい気持ちもありました。でも、お金も飲める量も限られています。削る基準が必要だったんです。 ITPはどんな試験か|米国NIAが3施設で同時に行うマウス寿命試験 ITP(Interventions Testing Program)の運営は、米国国立老化研究所(NIA)です。始まったのは2004年でした。試験は Jackson Lab(メイン州)、ミシガン大、テキサス大の3ヶ所で同時に行います。同じ化合物を遺伝的に多様な UM-HET3 マウスに与え、寿命を測ります。1化合物あたり約900匹(3サイト合計)です。 ふつうのマウスの寿命実験と比べると、違いがよくわかります。 項目 一般的な動物実験 ITP 実施施設 1施設 3施設(Jackson Lab、ミシガン大、テキサス大) マウス系統 近交系(遺伝的に均一) UM-HET3(4系統交配、遺伝的に多様) サンプルサイズ 数十匹 約900匹/化合物(3サイト合計) 再現性 保証なし 設計に組み込み済み 1施設だけの結果は、それほど信用できない。ITPはこの前提で組まれています。施設ごとに、飼育条件・水・餌・空気・人員が少しずつ違います。研究者の手癖もあります。単一ラボの結果からは、「その施設のその条件で延びた」以上のことは言えません。3つの独立した施設で同じ結果が出たら、はじめて「化合物そのものの効果である可能性が高い」と読めます。遺伝的な背景を広げ、施設ごとの差も込みで、それでも延びるかを確かめているわけです。マウスの寿命試験で、ここまで厳しい設計のものはほかにありません。 人間に当てはめられるかは、正直わかりません。マウスと人間では、代謝も寿命もかかる病気のパターンも違いすぎます。ただ、3施設で独立に再現されたデータは、1施設で数十匹を調べた試験1本より信頼して読める。僕はそう思っています。 寿命延長に成功した物質 Sランク(最大効果) 物質 雄の延長 雌の延長 性差 出典 ラパマイシン+アカルボース併用 約34% ラパ単独と同等 雄で追加延長 Strong et al. 2022 ラパマイシン(42ppm高用量) 約23% 約26% 両性(雌>雄) Miller et al. 2014 ラパマイシン(14ppm) 雄 約9% 雌 約14% 両性(雌>雄) Harrison et al. 2009 アカルボース(1000ppm) 約22% 約5% 雄»雌 Harrison et al. 2014 ラパマイシンはマウスの寿命をどこまで延ばしたか|用量とタイミング ITPで寿命延長をいちばん一貫して再現しているのが、ラパマイシン です。最初の報告はHarrison 2009(PMID: 19587680 )でした。餌に14ppmを混ぜて(人間換算でおおまかに数mg/週レベル)、生後600日齢から与えています。マウスの600日齢は、人間でいえば60代です。高齢から飲み始めても寿命が延びた ことが、当時の長寿研究を大きく動かしました。 ...

April 16, 2026 · 更新: April 29, 2026 · 4 min · Mitsuhito

NAD+を上げれば若返る、の『上げれば』は本当か ― NMNを1年飲んだ僕の答え

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、エネルギー代謝とDNA修復に関わる補酵素です。NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)を飲むとこれが上がることは、人間でも確かめられています。「NAD+を上げれば若返る」という話にのって、NMNは世界中に広がりました。 ところが、同じ経路を通るNRはマウスの寿命を延ばせませんでした。試したのはITP(アイティーピー: 米国NIAが3機関で同時にマウスの寿命を調べる試験プログラム)です。結果の再現性が高いことで知られています。人間で若返りを確かめた試験も、5年以上追った長期の試験もまだありません。僕は1年ほど飲んできて(今は300mg/日)、体感もHOMA-IR・FBSも動いていません。「上げれば」の部分は人間ではまだ確かめられていない、というのが今の僕の答えです。 エビデンスグレード: ★★☆☆☆(仕組みは分かっています。ただし独立した再現試験や、5年以上追った人間の試験はまだありません) ✓ 積み上がっているもの 仕組み: NAD+の前駆体として、サルベージ経路を1ステップで通ることが生化学的にはっきりしています 動物: Mills 2016では12ヶ月の投与で代謝が改善しました。Kane & Sinclair 2024では、雌マウスの寿命中央値が+8.5%延びています 人間RCT: メタアナリシスの対象になったものが約8本あります。小規模ながら、下肢機能・歩行速度・換気閾値パワーの変化が報告されています 安全性: 250-1250mg/日、最長12週間の試験で、重い有害事象は報告されていません △ これから必要なもの ITP(3機関での独立再現)でNMNはまだ試されていません 同じ経路のNRがITPで失敗した(Harrison 2021)ことに、どう答えるか 寿命が延びたというSinclair研究室の結果を、別の研究室が再現すること 12週間を超える長期試験と、死亡や病気の発症といったハードエンドポイントでの検証 メタアナリシス(8 RCT, 342名)では、血糖やインスリンの改善は見られませんでした NMNを推してきたDavid SinclairはMetroBiotechを共同創業していて、FDAをめぐるひと騒動もありました。僕は利益相反を割り引いて読むようにしています 僕が実際に飲んでいる製品(月¥1,140・△ドロップ候補): CGN NMN Powder 90g(300mg/日で約10ヶ月分・★4.5・800件レビュー)→ iHerbで価格を確認 。紹介コード GDW3410 はこのリンクから自動で付きます。スタックの中で、いちばんやめる寸前にある成分です。同じ目線で選んだサプリはiHerb厳選サプリリスト にまとめています。 結論:NAD+は上がるけれど、若返るかはまだ分かりません NMNはNAD+のすぐ手前にある前駆体です。飲めばNAD+が上がることは、人間でも確認されています。動物では代謝の改善が出ていて、Sinclair研究室の雌マウスでは寿命が8.5%延びました。人間の小規模RCTでも、下肢機能や歩行速度に変化が出た試験があります。 気になるのはNRのほうです。同じサルベージ経路を通るNRは、ITPで雄雌とも寿命を延ばせませんでした (Harrison et al. 2021)。NMNそのものはまだITPで試されておらず、別の研究室での再現もほとんどありません。人間のメタアナリシスでは、血糖やインスリンの改善は見られませんでした 。NAD+が上がることと、健康になったり長生きしたりすることは、今のところ別々の話として見ておいたほうがよさそうです。 NAD+前駆体の比較:NMN・NR・ナイアシン NMNは、体の中でNAD+に変わる前駆体の1つです。NAD+は、数百もの反応に使われる補酵素です。エネルギー代謝やDNA修復、サーチュイン(老化に関わる酵素のグループ)の働きにもかかわっています。年をとると減っていくことも報告されています。 前駆体はほかにもあり、どのステップを通ってNAD+になるかがそれぞれ違います。 前駆体 変換ステップ 月額コスト(代表用量) 年額 ITPテスト 備考 ナイアシン(ニコチン酸) 3ステップ ¥200-500(500mg/日) ¥2,400-6,000 — フラッシュ(顔面紅潮)の副作用。最も安価 NR(ニコチンアミドリボシド) 2ステップ ¥4,500-5,500(300mg/日) ¥54,000-66,000 失敗 FDA GRAS取得。30以上の人間試験 NMN(250mg/日) 1ステップ ¥3,000-8,000 ¥36,000-96,000 未テスト FDA問題あり(後述) NMN(1000mg/日) 1ステップ ¥12,000-30,000 ¥144,000-360,000 未テスト Sinclair本人の公言量 NMNが「NRの1ステップ先」にあるのは確かです。ただ、口から飲んだNMNはかなりの部分がいったんニコチンアミドに分解され、そこから作り直されます。 ...

April 16, 2026 · 3 min · Mitsuhito