高齢者のタンパク質摂取量|1.0〜1.6 g/kgの根拠とアナボリック抵抗

年をとると、若いころより多めのタンパク質が要ります。代謝研究で見ると、1食あたり体重1kgで若年の約1.7倍です。同じ量を食べても、筋肉が作られにくくなるからです。この現象をアナボリック抵抗と呼びます。PROT-AGE study group(Bauer 2013)の推奨は、健康な高齢者で1日1.0〜1.2 g/kgです。Attiaやボディビルダー系の人たちは、もっと多い1.6〜2.2 g/kg/日を主張しています。 逆向きのデータもあります。Longoらの観察研究(Levine 2014)では、中年期の高タンパク質と、がん・死亡リスクの関連が出ました。メチオニン制限食のマウス実験(Miller 2005)では、寿命が延びています。どちらも、mTOR(エムトール: 栄養を感知してタンパク質合成モードに入らせるセンサー)にかかわる話です。mTORを抑えたほうが長生きにつながる、という見方の裏付けになっています。ただし、ここは動物のデータが中心です。 僕は42歳で、1日100〜115g(1.4〜1.6 g/kg/日)を目安にしています。優先したのは筋量のほうでした。mTORを長い時間高く保ちすぎないための工夫も、ラパマイシンのような間欠的な介入には頼っていません。運動前後の2食にタンパク質を寄せて、残りの時間は少なめにする。この時間の分け方で対応しています。 エビデンスグレード: ★★★★☆(加齢で必要量が増えることは複数の代謝研究で一致、mTOR抑制派は動物データ中心) ✓ 積み上がっているもの アナボリック抵抗: 筋タンパク合成を最大にするのに、若年は1食0.24 g/kgで足ります。高齢者は0.40 g/kg(約1.7倍)が要ります(Katsanos 2006、Moore 2015) PROT-AGEの推奨(Bauer 2013): 健康な高齢者なら1.0〜1.2 g/kg/日です。病気を抱えている高齢者は1.2〜1.5 g/kg/日まで上がります Morton 2018のメタアナリシス: 筋トレと組み合わせると、約1.6 g/kg/日で筋肥大の伸びが頭打ちになりました 1食の量: 30〜40g/回、ロイシン2.5〜3g/回で筋タンパク合成が最大になります DIAAS(タンパク質の質の点数): 乳清・卵・肉が高く、植物性は低めです。高齢者は量に加えて質でも差が出ます △ これから必要なもの 「高タンパク質で長生きする」を直接確かめた人間のRCTはありません。調べられているのは筋量や身体機能までで、寿命を評価項目にした試験はまだです mTOR抑制派の人間データ: Levine 2014は観察研究で、ITPで寿命を延ばす介入の全体像 は動物の話です。人間でのメチオニン制限RCTは、小規模なものしかありません 日本のDRI(Dietary Reference Intakes、食事摂取基準)2025年版では、成人の推定平均必要量のもとになる値が0.73 g/kg/日です(良質な動物性たんぱく質での維持必要量0.66を、ふだんの食事での利用効率90%で割った値)。推奨量はその1.25倍で、約0.9 g/kg/日です。PROT-AGE(1.0〜1.2)より低めです。日本の基準どおりだと、ふだんから不足しやすくなります 腎機能が落ちているときの上限: CKDが進んだ段階では、高タンパク質が害になるかもしれません。個別の判断が要ります 結論:高齢者は1日1.0〜1.6 g/kg、1食30gを運動前後に寄せる 高齢者のタンパク質の量には、増やす側と減らす側、両方の根拠があります。 増やす側の根拠は、人間の代謝研究です。アナボリック抵抗とサルコペニアのデータは固く、PROT-AGEの1.0〜1.2 g/kg/日は国際的な合意に近い 水準です。日本のDRIはこれより低く、高齢者の筋量を守るには足りない側にあります。この差のせいで、日本ではタンパク質が不足しやすいんです。 減らす側の根拠は2つあります。メチオニン制限で動物の寿命が延びたこと 。もう1つは、Levine 2014で中年期の高タンパク質ががん・死亡リスクと結びついたことです。mTORをずっと高く保つのが長生きにプラスとは限らない、という動物データが積み上がってきました。ただ、人間で寿命が延びるところまでは確かめられていません。 運動を続けている健康な人なら、Morton 2018の1.6 g/kg/日を上限の目安にして、1食30gを3〜4回に分ける。いまの実用的な答えはこのあたりだと思います。体重ごとの量は下の表のとおりです。 体重別の目安表(per day) 体重 1.0 g/kg 1.2 g/kg 1.4 g/kg 1.6 g/kg 50kg 50g 60g 70g 80g 60kg 60g 72g 84g 96g 70kg 70g 84g 98g 112g 80kg 80g 96g 112g 128g 1.0と1.2の列がPROT-AGEの推奨、1.6の列がMorton 2018の上限です。自分の体重の行で、この間に収まっていれば十分だと思います。 ...

April 21, 2026 · 更新: May 10, 2026 · 4 min · Mitsuhito